2018年10月28日に行われた大統領選の2回目の投票の結果、ジャイール・ボルソナーロ氏 (社会自由党=PSL)が当選したことは、労働者党(PT)が約15年にわたって主導してきた 外交政策からの脱却を意味する。[Link] 実際に、ボルソナーロ氏の演説は「急進的な改革 」を強調するもので、先進国、特にブラジルの将来の対外政策に大きな影響を及ぼす米国と の関係強化に主眼を置いている。この外交政策の方向性は、外務大臣にエルネスト・アラウ ージョ氏が任命されたことからも明らかである。しかし、2019年1月1日に発足した新政権は 、次の4年間で実施する外交政策の指針を未だ明確に示していない。
注目される社会保障制度改革社会保障制度改革等の構造改革が、新大統領の任期中に実行されるかどうかは未知数である。ブラジルの外交政策、国内経済に影響を与える政策決定を国際社会は注視しているが、とりわけ最も注目を集めているのが社会保障制度改革である。政府は、社会保障制度改革を、政権発足後100日間で優先して取り組む課題として掲げている。テメル前大統領政権下で議会に提出された改革法案には、2038年以降に年金受給開始年齢を変更すること(男性は65歳、女性は62歳から)、民間部門で勤務する人の最低納付済期間を15年、公的機関で勤務する人の当該期間を25年とすることなどが盛り込まれた。1月3日、ボルソナーロ氏は最低受給開始年齢を、男性の場合は62歳、女性の場合は57歳とすることを発表した。[Link][Link][Link]
1. 先進国との関係強化
開票後の最初の国民演説で、ボルソナーロ氏は「左派の労働者党の思想に偏向した外務省を一新し、先進国との関係を再び強化する」と宣言し、具体的には米国、EU諸国、日本の名前を挙げた。[Link] [Link]. 外務大臣にエルネスト・アラウージョ氏が任命されたことは、ボルソナーロ氏が、国の外交政策を、米国との密な関係の構築に集中させる意向であることを明らかにするものである。[Link] このことは、米国とは安定した関係を維持しながら、一定の距離を置くという外交政策をとってきた国からの脱却を意味する。[Link].
外交官のアラウージョ氏は、2018年に大使に昇格し、外務省の米州局長を務めていた。ブラジルを南米における米国の同盟国とするための関係構築を優先すべきとの考えを持ち、ボルソナーロ氏に同調している。 [Link]
アラウージョ氏は、ボルソナーロ政権において、伯米の二国間の関係強化には“何らの制約もない”と表現し、「長年の間、ブラジル政府、米国政府との間の共通の世界観が欠如していた」と指摘する。アラウージョ氏は、ブラジル・米国関係の質的な改善に期待を示し、「おそらくリオ・ブランコ男爵 [1] の時代以降、初めて、ブラジルが米国との特別な関係を築き、念願であった米国の同盟国となるときが来る。この共通の世界観から、関係を構築していくチャンスである」としている。 [Link]
ボルソナーロ氏は、 ブラジル製品に経済的・技術的な付加価値を与える国々との二国間関係の構築を模索する意向を示している。外交政策は、何をおいても国の経済政策、商業政策の手段として考案・決定されるもので、その狙いは、先端技術や投資を誘致し、グローバル・バリュー・チェーンの一角を占めることで、国の産業やサービスの競争力を高め、さらには米国のような巨大な消費者市場への自由な参入を実現することである。[Link].
ボルソナーロ氏は、1月22日に開幕するダボス会議に、経済大臣、外務大臣、法務大臣とともに出席する。
2017年2月22日に貿易円滑化協定が発効しており、新政権下でAEO(Authorized Economic Operator)事業者制度の相互承認への合意が見込まれている。認定事業者には、貿易円滑化のための措置を享受するために特定の基準を満たすことが求められる。[Link]
相互承認協定は通関手続きの迅速化を定めるもので、これにより、ブラジル、米国両国が認定したAEO事業者に対して、相互に税関手続き上の便益を与えられることになる。米国との貿易の迅速化を図ることで、今後12ヶ月の間にブラジルのGDPが502億ドル増加することが見込まれている。[Link] [Link] 従って、米国との関係の緊密化により、貿易の大幅な拡大(年間500億ドル)[Link]、医学・科学分野の研究に関する協力関係の強化、国境を越えた不正取引の取り締まりを含む安全協力関係の拡大が期待される。 [Link]
さらに、 経済協力開発機構(OECD)へのブラジルへの加盟に米国の支援を得ることは、“極めて重要な”優先事項とされている。2017年5月、テメル政権時代にブラジルのOECD加盟が申請されたが、米国、特にUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)の反対が最大の障壁となった。 [Link] 米国は、現時点では「ブラジルの加盟については、アルゼンチンが加盟した後にのみ、その可能性がある」としている。
ブラジルにとってOECDへの加盟が重要な理由とは
ブラジルのOECDへの加盟申請は、ブラジルが、国際秩序に関する見方を表明するためにも多国間組織に継続的に参加し、国際フォーラムにおける存在感を増している傾向の表れといえる。ブラジルのOECDへの加盟申請は、ブラジルの国際的信頼性を高め、OECDの規則や義務を履行する意思があることの表明であり、ブラジルの国政に“品質証紙”が与えられることをも意味する。実際に、OECD加盟国の国際的慣行のベストプラクティスは世界的に知られるところで、ブラジルはOECDの厳格な経済・財務基準を満たすことが求められる。
ただし、ブラジルは、国の発展のための公共政策(制度改革、ビューロクラシーの軽減、行政の改善、法的安全性の向上、透明性の確保、グッドガバナンスの遂行、規制の枠組み、税制改革の実行等)の実行を課題としており、OECD加盟国はブラジルに構造改革の迅速な実行を求める可能性がある。 OECDに加盟すれば、投資と輸出が促進されることで競争力と生産性が強化され、ブラジルの国としての魅力が増し、諸外国のブラジルに対するイメージが改善され、ビジネス環境の安定、投資家の信頼感向上が見込める。
OECDは、世界経済を方向付ける影響力のある機関の一つであり、ブラジルが加盟することで、その経験を共有し、機関の決定や、国際的ルールや基準の制定に影響力を及ぼす立場の確立が期待できる。また、OECDは、国際的選択肢の多様性を表す機関としての価値をも持ち合わせている。BRICSとOECDの両方に所属することで、ブラジルは独自の地位を確立し、国際システムの中でも戦略的な地位を占め、世界経済の流れに影響を及ぼすグループに有利な立場で参画できる可能性がある。ブラジルは、現在のOECDのキー・パートナー5ヶ国の一つであるが、OECD加盟国、いわゆる“巨頭で
構成されるクラブ”の一角をなすことは、世界の上位国の仲間入りを果たすことを意味する。ブラジルがOECDの加盟国となる可能性は、従来のパートナーとの関係緊密化の外交政策の新たな局面を象徴するものといえる。
なお、2018年3月にトランプ大統領は通商拡大法第232条に基づき鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税をかけることを発表したが、米国との関係強化の成果として、ブラジルはこの措置免除の恩恵を受けた。8月には、韓国、ブラジル、アルゼンチンの鉄鋼への関税、アルゼンチンのアルミニウムへの関税が免除された。 [Link] [Link]
ある米国政府の高官は、「政府のトップの指示により、ブラジルとの関係強化のための意識的な努力がなされた。ボルソナーロ氏の当選で、(ブラジルを)パートナーとすることへの好意的な空気が生まれた。今後、伯米関係は“黄金時代”を迎える可能性がある」と明かす。 [Link] しかし、現在はベネズエラ情勢が大きな懸案事項となっているラテンアメリカにおいて、自国の戦略地政学的な利益を保護し、拡大するための手段として、米国政府がボルソナーロ氏にどの程度まで関心を抱いているかは未だ明らかになっていない。[Link]
ボルソナーロ氏は3月にワシントンを訪問、トランプ大統領との首脳会談を行う予定となっており、その場で、貿易、投資、電力、インフラ、防衛技術のアジェンダを網羅する二国間パートナーシップの締結及び協力合意が行われる見込みである。
1. メルコスール(南米南部共同市場)
パウロ・ゲデス経済大臣は、メルコスールを“EUに次ぐ規模の地域ブロック”と位置付けたものの、新政府の「優先事項ではない」と明言し、「非常に限定的で、ブラジルは閉鎖的なイデオロギー的な同盟に閉じ込められてしまう。経済に非常に悪影響を及ぼしている」としている。 [Link] [Link]
ゲデス氏は、「ブラジルは、一つの地域にのみ限定せず、世界各国との商取引関係の確立を模索すべきである」と主張している。メルコスールは、対外共通関税(CET)、域外パートナーとの交渉には加盟国と合同で行う義務があることから、ゲデス氏は「(メルコスールは)ブラジルにとっては制約的なもの」と見ている。ボルソナーロ政権では、域内での関税の引下げ、ブラジルと他国との二国間貿易協定の交渉が可能となるような政策実行が見込まれる。 [Link]
また、貿易・国際関係特別局のマルコス・トロイホ局長は、「現代社会の特徴の一つは、 買い手市場と協定を結ぶこと。ブラジル経済は非常に保護主義的。新たな貿易の動向に対応し、経済を開放するための構造的な変革が必要である」との見解を示している。 [Link]
これまでは多国間貿易システム内での交渉に主眼が置かれてきたが、新政府は二国間協定の締結をより重視する意向を示している。「今日の傾向として、二国間関係の締結が主流。ブラジルはそれに適応しなければならない」とトロイホ氏は言う。 [Link] さらに、アルゼンチンとの従来の強固な関係からシフトして、チリとの貿易を重視するという意向も表明された。 [Link]
とはいえ、メルコスールにより、ブラジルが利益を得たことは間違いない。メルコスール創設加盟国との貿易額は、1991年時点では45億ドルであったのが、2017年には400億ドルと9倍に拡大した。経済大国との自由貿易協定の交渉においては、プラットフォームとしてメルコスールを利用することで、ブラジルの立場がより強化されるのも事実である。 [Link] [Link] [Link]
メルコスールの自由貿易協定(FTA)については、ボルソナーロ氏は協定締結を否定していないものの、「EU側がブラジルの輸出品、一次産品の量の減少を要求するならば、理論的には、EUは(ブラジルの支持を)得られないと考えなければならない」としている。[Link] また、交渉に当たったEU側代表者らが、EUとブラジル(ボルソナーロ政権)との価格に関する意見の相反により、交渉休止を求めてメルコスールとの対話を呼びかけた。しかし、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ボルソナーロ大統領がパリ条約への立場・見解を表明することを、EU・メルコスール貿易協定をフランスが支持する条件とした。
なお、外務省メルコスール担当部局のオタビオ・ブランデリ局長が外務省事務局長に任命されたことは特筆に値する。ブランデリ氏はかつて、ブリュッセルの欧州経済共同体(ECC)、ラテンアメリカ統合連合(ALADI)、メルコスールのブラジル政府代表を務めた経験を持つ。また、2013年から2015年までブラジル特許庁長官を務めており、知的財産権の専門家でもある。[Link].
2. キューバ、ベネズエラ
米国政府は、「ラテンアメリカにおいて新たに保守派のリーダーが誕生したことが、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアの急進派左翼政府、いわゆる“南半球の三大専制国家”の弱体化を助長する」と指摘し、その可能性への希望を表明している。
その一つの証として、ボルソナーロ氏は、キューバとの国交断絶の可能性を示唆している [Link] キューバ政府は2018年11月に、連邦政府の医師派遣プログラム「Mais Medicos(もっと医師を)」に関するブラジルとの協力関係の中止を通知し、このプログラムにより、ブラジルの遠隔地や内陸部の医師が不足する地域に派遣されていたキューバ人の医師約8000人が、キューバに呼び戻される事態となった。ボルソナーロ氏は、キューバにおける医師教育の質を疑問視し、「キューバでは医療従事者が搾取されている」などとした。また、同プログラムで“最大シェア”を占めたとしてキューバ政府を非難する発言をし、協力協定の内容の変更を求めていた。2 [Link] [Link]
また、ボルソナーロ氏はたびたび、ベネズエラの政治体制を非難する発言をしている。アミルトン・モウラォン副大統領は、ベネズエラへのピースミッションの派遣の可能性を示唆し、「ニコラス・マドゥーロの独裁体制からのベネズエラの解放は世界が求めており、ブラジルも当然同調している」とした。3 [Link] [Link] [Link]. 米国政府は、ボルソナーロ政権が、これまでの傾向とは一転してマドゥーロ政権に対してより思い切った措置を採ることが期待されることから、ブラジルを米国にとって“価値ある資産”となる可能性があると見ている。
3. イスラエル
ボルソナーロ氏は、米国やグアテマラに倣い、イスラエルのブラジル大使館をテルアビブからエルサレムに移転することを公約していた。 [Link] ボルソナーロ氏は、「イスラエルは主権国家として、どの都市を自国の首都とするかを単独で決定すべき」との見方を示しているが、この措置は、国内のボルソナーロ支持者の一部に好意的に受け止められると見られる。 [Link] これまで、イスラエル・パレスチナ紛争に対してブラジルは不干渉の立場を取っていたが、大使館移転の措置によって今後その方向性が変更される可能性がある。 [Link] [Link] [Link]
しかし、この措置に関しては、ブラジル政府内で意見が分かれている。軍部関係者らが、ブラジルと中東間の安全保障上の問題発生を懸念する一方、エコノミストらは、アラブ諸国との商取引関係の重要性を強調し、アラブ地域の市場へのアクセスを失うリスクを指摘している。ブラジルは、イスラム教で合法とされる食肉の最大輸出国である。2018年1月から10月までのアラブ諸国向けの当該食肉の輸出額は93億ドルに達し、イスラエルへの輸出額は2億6960ドルとなっている。 [Link] [Link] [Link] [Link] [Link].
また、エジプト、カタール、イスラム協力機構(OCI)は、ブラジル大使館のエルサレムへの移転に反対の立場を示している。2018年11月に、エジプト政府はこの措置への抗議を表明する形でブラジルの外務大臣の表敬訪問を中止しており、報復措置のリスクへの懸念は、米国よりもブラジルの方が深刻であることがわかる。 [Link] [Link]
さらに、2018年11月6日、ブラジルはそれまでイスラエル・パレスチナ紛争に関する国連決議案に関しては投票を棄権していたが、その立場を一転し、イスラエルと米国を支持する投票をした。投票は、イスラム原理主義組織ハマスがイスラエルに対してミサイルを発射したことを糾弾した米国の発案によるもので、決議は国連総会で承認されずに終わった。
4. 国連、多国間外交
エルネスト・アラウージョ外相は、多国間相互自由貿易には反対の意を示し、「各国家の主権はグローバル・ガバナンスに対して優位となる」という見解でボルソナーロ氏に同調している。アラウージョ氏は、「“ルールに基づく国際秩序”に従い、“国際レジーム”の遵守に基づいて、世界におけるブラジルの位置づけを誰かに決められた」とし、「国際連合は、各国家の独自性や特性のより尊重し、保護するために組織された国家の集団であり、各国家を、実体のない世界的な集合体の中に希釈するためにあるのではない」と主張している。 [Link]. また、ボルソナーロ氏は、国際連合人権理事会(UNHRC)からのブラジルの脱退、近年ブラジルが合意した気候変動抑制に関する義務の放棄を明言している。さらに、1月8日には、2018年12月10日に採択された「国連移民協定」への不参加を表明する意向を伝えた。
米国政府は、2017年6月にパリ協定を脱退し、国連移民協定については2017年12月に参加交渉を放棄した。UNHRCからは2018年6月に脱退している。
気候変動について
気候変動について、「ことさら(必要以上に)騒ぎ立てている」と非難するアラウージョ氏が外務大臣に就任したことで、新政府は地球規模の気候の動きに対しては静観することが予想される。[Link] [Link] また、1月10日、アラウージョ氏は、政府の気候変動課を廃 止する意向を明らかにした。 [Link]
さらに、ブラジルは昨年11月、 2019年の第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)の開催誘致を断念する方針を発表した。開催には4億レアルのコストが予想され、政府は財政難と予算の制約、「政権移行期間であること」を理由に挙げた。またボルソナーロ氏は、国家の主権を訴え、環境問題がブラジルの有望な経済部門である農業セクターを停滞させるなどと主張した。「環境保護政策が、ブラジルの発展を“妨げる”ものであってはならない」とし、「重大な問題は、環境保護政策はブラジルに恩恵をもたらさないということ。恩恵を受けているのはブラジル以外の国や地域である」と発言した。[Link] このCOP25の開催誘致を見合わせる決定は、これまで気候変動関連の交渉の場で主要な当事国であったブラジルが、その役割を放棄することの表明と受け止められ、国際社会で波紋を呼んだ。
ボルソナーロ氏がブラジルのパリ協定からの脱退を表明した一方、リカルド・サレス環境大臣は1月15日、大統領が脱退を見合わせることに同意したと発表した。 [Link] パリ協定では、広範囲の環境保護策「トリプルA」の制定(具体的には農業、鉱業、林業、建設業用の面積を13万6000ヘクタールの縮小) [Link] が必要となり、ブラジルの主権が危機的状況にさらされることが予想される。[Link] ブラジルがパリ協定を脱退すれば、国際社会のルールやコミットメントを重視した従来のブラジルの外交政策に反し、連鎖反応(ブラジルを盾にして協定を脱退する国が出てくるなど)を引き起こすだけでなく [Link] [Link] [Link] [Link] [Link]、ブラジル製品の取引拒絶や、EUとの関係悪化など、外国市場の(ブラジルへの)閉鎖を招くおそれがある。 専門家の間では、ボルソナーロ氏にはEUとの関係を断絶する考えはないと指摘する声もあり、気候変動対策への協力を拒否することでEUとの関係が弱体化すれば、ボルソナーロ氏は方針を転換するとみられている。 [Link] [Link]
国連移民協定について:アラウージョ外相は、この協定について「この問題への対処方法としては不適切」と表現しており、その理由を「移民問題は、国際問題としてではなく、各国の現実や主権に従って考えるべき問題」としている。この協定は、人権や子供の保護、国家の主権の承認を原理として掲げ、情報や経験の共有を通じた、各国による移民の流入や移住先社会への統合などへの取り組みを支援することを目的としている。また、恣意的な拘束は禁じており、最終手段としての収監のみ認めている。[Link] [Link] しかし、ブラジルが多国間協議のプロセスから距離を置けば、ブラジル国外に居住するブラジル人が脆弱な状況にさらされ、政治的な勢いが弱まるだけでなく、移民問題対処への国際的努力を損なうことにもなる。 [Link] [Link]
5. アジア
中国:ボルソナーロ大統領は選挙運動中、「国内経済の種々のセクターへの中国資本の“侵略”に抵抗する」として、ブラジルと中国の関係の見直しに注力する意向を明らかにしていた。 [Link] [Link] [Link] [Link]
ボルソナーロ氏は、中国企業がブラジルの国営企業への巨額の出資を行っていることへの不安感を示し、「中国は、ブラジルで(企業を)買収しているのではない。中国はブラジルそのものを買収している」などと発言した。 [Link] アラウージョ外相も同様の見解を示しており、中国企業による電力、インフラ、石油・ガス産業への投資を“ブラジルの主権に
対する脅威”と捉えている。米国政府は、中国がラテンアメリカにおいて存在感を増している状況を逆転させ、米国が巻き返しを図る方法として、南米の最強国、すなわちブラジルと連携することを模索していると言われる。米国としては、これまでのブラジルと中国の密接な関係はイデオロギーの近似によるもので、ブラジルの主要なパートナーとしての地位を中国から奪回できる可能性があると踏んでいる。 [Link] [Link]
ただし政府内には、パウロ・ゲデス経済大臣など中国を別の見方で捉えている閣僚もいる。中国はブラジルの最大輸出相手国で、輸出額は470億ドルに達した。[Link] [Link] [Link]また、中国のブラジルへの投資額は過去10年間で550億ドルに上っている。ある専門家は、「政府の経済チームは、伯中関係がもたらす重要な恩恵を脅かすことのないよう、現実的な対応の維持を図ろうとしている。(大統領や外相が)中国との距離を置くような働きかけをすれば、経済チームから反発が生まれると予想される」と指摘する。
一方、ボルソナーロ氏が2018年2月に台湾を訪れたことが、台湾を自国の領土の一部とみなす中国側に不快感を与え、中国は「中国の主権と領土の保全の侵害」と非難した。ブラジルが一角をなすBRICSに関しては、過去10年間で、国際社会においてブラジルに“特別の地位”が与えられていると見られている。テメル政権下で、ブラジルのBRICSにおけるプレゼンスは薄り始めたと言われるが、ボルソナーロ政権でその傾向が加速すると予想されている。[Link].
日本:ボルソナーロ氏の政府計画において言及された国の名前は数少ないが、日本がそのうちの一つである。[Link] [Link] ボルソナーロ氏は昨年、選挙運動中に日本と韓国を訪れ、日本では特に歓迎を受けた。日本における1回目の投票で、ボルソナーロ氏は70%、2回目の投票では90%の得票率を得て圧勝した。[Link] ボルソナーロ氏は、日本の文部科学省、経団連等を訪問して意見交換を行い[Link]、訪問中には、ブラジルにおけるニオブ生産プロジェクトにおいて、日本と連携して取り組みたい意向を明らかにした。 [Link]
[1] 当時、ブラジルは南米の大国として米国から特別扱いを受けることを望み、米国政府との協力関係の構築への希望を表明していた。 [Link]
[2] ボルソナーロ氏は、キューバ人医師らに対して、医学知識を問う試験を受けること、各医師への給与は、キューバ政府ではなく本人に対して支払われることなどを要求した。
[3] 一方、アウグスト・エレーノ大統領府安全保障室長官は、「従来からブラジルは他国の内政に対する干渉主義をとっていない」として、ブラジルがベネズエラに干渉する可能性を否定している。 [Link]