ブラジルにおける顧客に 好まれない商標および 顧客に好まれる商標

【概要】

ブラジルの商標事情は、同国の文化的多様性、法的基準、消費者行動によって形成 されている。ブラジル産業財産法(法律第9,279号/96、以下「産業財産法」とい う。)は、国際的な標準に整合するよう努める一方で、審査過程や消費者の認識に 影響を与える現地の感覚も取り入れている。 本稿では、商標登録が拒絶される主な法的禁止事項について説明し、さらに、ブラ ジルにおける「顧客に好まれない商標」と「顧客に好まれる商標」を、単に登録の 可否にとどまらず、より広い文脈で検討する。

【詳細及び留意点】

1. はじめに

 本稿では、ブラジルにおける「顧客に好まれない商標」と「顧客に好まれる商標」 を、単に登録の可否にとどまらず、より広い文脈で検討する。例えば、実際の市場 での使用に伴う問題、ブラジル産業財産庁(以下「INPI」という。)の審査過程で 顕在化する課題、産業財産法およびブラジルの審査基準に基づく法的問題、さらに 場合によっては関連する観点について説明する。ブラジルでは、登録の可否と消費 者の受容が必ずしも一致せず、言語的・文化的含意が審査や市場評価に大きな影響 を与える。拒絶されやすい商標の典型例と、逆にブラジルで支持されやすい商標の 特徴を対比させることで、法令遵守・文化的適合・ブランド訴求力のバランスの取 り方を明らかにする。

2. 商標に関する法律上の規定とその背景

 2-1. 法令、審査基準、ガイドラインに基づく理由

 産業財産法は、商標として登録できない事項について具体的な禁止事項を定めて いる。これらの禁止事項は、主に、絶対的および相対的拒絶事由を列挙した第124 条と、出願人の適格性に関する第128条に規定されている。

第128条第1項:出願人の資格

 この規定は、商標登録出願人が民間法人である場合は、当該出願商標が、当該法 人が直接的または間接的かを問わず、効果的かつ合法的に支配する会社を通じて行 う事業に関する商標である旨を宣言しなければならないことを、定めている。この 宣言は、当該出願人が商標およびそれに関連する商品または役務に対して正当な利 益を有していることを保証するものである。

第124条:登録を受けることができない商標

(1) 公式シンボルまたはモニュメントを模倣または複製する商標(第124条(I))。

 紋章、勲章、旗印、公的な識別標識および記念物(国内外または国際的なものを 含む)、ならびにそれらの名称、図形または模倣品を商標として登録することは禁 止されている。 この禁止は、絶対的な拒絶理由であり、国家または国際機関が使用する標識およ び国家または国際機関の実際の名称の登録は認められない。

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(2) 道徳および善良な風俗に反する商標(第124条(III)前半)

道徳および善良な風俗に反する標識の登録は、禁止される。

INPIは、出願商標の性質に応じて、この規定を単独で、または前記の産業財産法 第128条第1項(出願人の資格)と併用して適用する: ・第124条(III)は、通常、商標自体に本質的に登録不可能な要素が含まれている場 合に適用される。 ・第128条第1項は、出願の指定商品・役務の範囲に関連して適用され、出願人の 実際の事業活動との整合性を確保する。 INPIの商標審査基準5.8.2は、商標が道徳または善良な風俗に反するか否かを評 価する際に、対象となる需要者の種類(一般層または特定層)、流通経路、商業活 動、宣伝方法など、商品または役務が展開される市場分野の具体的な特性を総合的 に評価する必要があると定めている。

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最近、ブラジルでは、アジア文化の人気が高まっている。韓国ドラマは動画配信 サイト(Streaming Platform)で多く視聴され、日本や韓国の商品を販売する専 門店がいくつかオープンしている。このような状況下、韓国の人気コンビニ「CU」 がサンパウロに開業し、同社の名称が出願された。しかし、「CU」はポルトガル語 で「肛門」を意味することから、道徳や善良な風俗に反するとして拒絶された。こ の事例は、言語的・文化的解釈がブラジルにおける商標登録の可否にいかに直接的 な影響を与えるかを示している。

(3) 名誉、イメージまたは宗教的感情を害する商標(第124条(III)後半)

他人の名誉もしくは印象を害するもの、または良心、信条、信仰の自由もしくは 尊敬および崇拝に値する思想ならびに感情を損なうものに係わる商標に関して、 INPIは以下の点を考慮する: (a) 商標が適切な許可を得ずに、識別対象である商品または役務に関連付けられた 場合、それが産業財産法第124条(XV)~(XVI)に基づき保護される人格権または 肖像権に対する個人の侵害を示すか否か。 (b) 良心、信条、信仰の自由または尊敬および崇拝に値する思想ならびに感情への 言及を含む場合、その標識が宗教的なイメージやシンボルを軽視したり、失礼な態 度でそれらの感情や思想に言及したりする可能性があるか否か。

これらの考慮事項は、文化的、倫理的、または法的根拠に基づいて商標出願が拒絶 されるか否かを判断する上で不可欠である。INPIの商標審査基準5.8.2では、この ような観点から登録できないものとして、以下の例を挙げている:

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(4) 個人名、ペンネーム、署名および肖像(第124条(XV)および(XVI))

産業財産法第124条(XV)は、所有者、その相続人または承継人の同意がある場合 を除き、第三者の個人名、署名、姓または父称、肖像の登録を禁止している。同条 (XVI)は、所有者、その相続人または承継人の同意がある場合を除き、著名なペン ネームやニックネーム、個人または団体の芸術的名称に対しても禁止を拡大してい る。

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2-2. 消費者への訴求力(Apeal)不足

不祥事・醜聞(Scandals)、事故、不快な俗語(slang)に関連する商標は、商 業的に失敗する傾向がある。汚職や暴力、差別を連想させる名称は、法的リスクが 高いだけでなく、世論からも強く拒絶される。

ブラジルでは、これらのテーマを直接連想させるものでなくても、何らかの形で これらの行為を想起させる用語を含む商標は、消費者が受け止められず、無視され る傾向にあることが注目に値する。例えば、航空会社に飛行機事故を想起させる商 標、鉱山会社に採掘事故を想起させる商標、特定の社会集団への偏見や攻撃的な発 言を想起させる商標などが挙げられる。消費者は、当該商標を企業の不祥事の象徴 として捉えるからである。

2-3. 刺激的な商標

Chana Motors(長安汽車)は、2006年にブラジルに進出した中国の実用車メー カーで、商標「Chana(第907600557号)」の使用を開始した。「Chana」はポル トガル語で女性器を意味するため、ブラジルではジョークの対象となっていた。同 社は、2011年に社名および商標を「 Changan(第825738199号)」に変更したが、 これら変更にもかかわらず販売は改善されることなく、同社は2016年にブラジル から撤退した。

「NAVARA(ナバラ、第827212860号)」は、日産自動車の中型商用車の商標 としてグローバルに使用されているが、「NAVARA」がスペイン語およびポルトガ ル語のスラングで「売春婦」を意味するため、ブラジルでは「Frontier」というブ ランドで販売することになった。ブラジルにおいてそのモデルを導入するときに 「NAVARA」から「Frontier」に改名したことについて、車関係のメディアにおい て、悪名高いダジャレの対象となることを避ける対策として広く報道された。

2-4. 日本語由来など文化的および言語的に理解し難い商標

商標の識別性と消費者の認識は、文化的および言語的理解に大きく影響される。 ブラジルにおいては、日本語に由来する語句(例えば、「おいしい」または「oishii」) のように、一般的なブラジル人にとって文化的および言語的に理解し難い商標は、 ブラジル市場で認知され、共感を得ることが難しい場合がある。

ブラジル、特にサンパウロには多くの日系人が居住しているが、一般的なブラジ ルの消費者は、日本の文字や文化的な言及を理解したり共感する可能性はほぼない。 その結果、以下のような事態が生じることが考えられる:

  • 意味の明確性の低下 商標の意味がターゲットとする消費者に即座に明らかにならない場合、意図し たメッセージやブランド・アイデンティティを伝えることができない可能性があ る。
  • 識別力の低下 商標は、出所識別標識として機能するために識別力がなければならない。多く の消費者にとって言語的に不明瞭な商標は、その機能や由来を明確に伝えること はできず、当該商標と指定商品・役務との関連性が一般的または非特徴的と見な され、結果として識別性の低下を招く。
  • 市場受容性の低下 消費者は、理解や共感が容易でない商標とは関わりたくないと考える可能性が あり、当該商標の成長性や認知性の低下、すなわち、市場における当該商標の受 容性が低い水準にとどまる可能性が高くなる。

3. 顧客に好まれる商標

3-1. 外国文字および言語の使用

外国語や外国文字は、消費者に特定の感情的・文化的連想を喚起し、商標に戦 略的に使用されることが多い。ブラジルでは、特定の言語や文字がブランド認知 を高める明確な意味合いを持つ。英語は、広く理解され、グローバルな魅力を連 想させる。フランス語は、洗練、エレガンス、高級感を連想させ、化粧品、香 水、ファッションの分野でよく用いられている。ブラジルの消費者は、日本語の 文字にあまり親しみを感じないが、日本文化には精密さ、純粋さ、美的規律を想 起することから、スキンケアや電子機器などの特定の市場において、日本文化に 由来する要素に、伝統、高品質、ミニマリズムを連想する。

しかし、こうした外来要素の効果は、消費者の親しみやすさや文化的共鳴があ る場合には、ブランド価値を高めることができる一方で、これらがない場合、特 にターゲットとする消費者が当該商標の発音や意味を容易に理解することができ ない場合には、期待した効果が得られないことになる。

なお、INPIの商標審査基準2.3によれば、商標がロシア語、アラビア語などの 特有なアルファベットや日本語、中国語のような表意文字で構成されている場 合、法的保護は図形的表現(外観)に対して適用され、それらが表す単語や表現 (称呼や観念)は考慮されないと定められている。このような場合、商標は図形 商標として解釈される。

3-2. 示唆的、言葉遊び的または略称に基づく商標

マーケティングの観点から見ると、示唆的、簡略化またはダジャレのような二 重の意味を含む言葉遊び的な商標は、その創造性や感情的共鳴、記憶に残りやす い特性から消費者に好まれる。これらの商標は、しばしばブランド・ポジショニ ングの強力なツールとなる。しかし、商標の識別性を維持し、説明的または一般 的な商標とならないよう注意が必要である。

(1) 示唆的商標または言葉遊び的商標

INPIの商標審査基準5.9.1によると、示唆的商標または言葉遊び的商標の定義は、 保護対象の目的、性質、またはその他の特徴を喚起または示唆する用語を含む商標 である。商品・役務の性質や特徴から直接的に構成された非識別性標章とは異なり、 これら商標は直接的に示すのではなく、商標によって識別される商品・役務との間 に間接的な関係を確立し、それらを商標に関連付ける知的努力を必要とする。

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(2) 略称商標

略称商標は、本来の音韻を簡略化することで、想起の容易さ、およびブランドを 多様化させることができ、ブラジルで広く使用される手法として、消費者に高い人 気を誇っている。通常、長い名称の省略、頭字語、口語的な翻案から生まれること が多い。

顕著な例として、ブラジルで「Méqui」として一般的に知られるようになったマ クドナルドの呼び方がある。長年にわたり非公式に使用されてきたこの愛称 「Méqui」を、マクドナルドは、正式に商標登録(第927802724号他)し、広告キ ャンペーン、店舗の看板、モバイルアプリにまで取り入れた。

このケースは、消費者主導の略称がいかに正式なブランド資産へと発展し、感情 的なつながりや文化的な関連性を高めることができるかを示す一例である。また、 商標の使用状況を監視し、市場で人気を博した派生商標の保護を確実にすることの 重要性も浮き彫りにしている。

3-3. スローガン

産業財産法第124条(VII)では、「単に宣伝活動の手段としてのみ使用される記 号又は文言」の商標登録を禁止している。歴史的に見ると、旧産業財産法(1996年以前)にはこのような禁止規定が存在しなかったため、明確にスローガン的な 特徴を有する商標がいくつか登録されていた。現行法においてこの禁止規定が導 入されたことにより、INPIの判断に矛盾が生じ、法的確実性や審査基準の統一性 に懸念が生じた。

INPIは、上記懸念を克服し、日本等と同様な国際標準(グローバルスタンダード) に整合する立場に修正するべく、商標審査基準を2024年11月27日に改正し、 「5.9.4 宣伝機能を発揮する標章」の項で第124条(VII)が適用される商標は、「広 告機能を果たし」かつ「識別機能を果たすことができない」商標に限る旨を明記し た。具体的には、全体観察の結果を考慮し、商標の識別機能(識別性)の有無の判 断手法として、インターネット検索の結果、競合他社が当該商標の表現を使用して いるか否かが挙げられている。

【留意点】

ブラジルで商標戦略を成功させるためには、法令遵守、文化的関連性、消費者 への訴求力のバランスを慎重に考慮する必要がある。ブラジルの産業財産法は、 商標の識別性および登録可能性と、出願人の事業活動との整合性に関する具体的 な要件を課している。したがって、法的に実行可能であることは、商標戦略の基 本となる。

同時に、商標から生じる文化的共鳴も重要な役割を果たす。つまり、ブラジル の多様な言語や社会情勢が、採用する商標に、現地の慣用句やユーモア、消費者 行動に対して敏感であることを要求する。法的には問題がなくても、文化的共鳴 とかけ離れた商標は、市場で受け入れられず、認知されるのに苦労する可能性が ある。

英語、フランス語、日本語などの外国語の要素を用いることで、洗練性、革新性、 高級感を表現し、商標の認知度を高めることができる。しかし、これらの要素はブ ラジルの消費者が理解しやすく、発音しやすく、かつ関連性を有するように適切に 調整する必要がある。言語的なニュアンスと消費者の親しみやすさにズレが生じる と、識別性が損なわれ、需要者が商標との相互作用を通じて感情的な関係を構築す る、いわゆる、ブランド・エンゲージメントが阻害される可能性がある。

【ソース】

ブラジル産業財産法(ポルトガル語、2024.05.03) https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/23216 (日本語、2021.09.21) https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-sanzai.pdf

ブラジル商標審査基準(ポルトガル語、2024.11.27)

https://www.gov.br/inpi/en/services/trademarks/archives/Manual_de_Mar cas_3_edio_4_reviso_Ingles_1.pdf (日本語、2016.06改正)

https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/brazil-shouhyou_kijun.pdf

(編集協力:日本国際知的財産保護協会)

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